素材と表現
ガラスには二つの顔がある。
柔らかい顔、硬い顔。
丸い顔、鋭い顔。
はかなさの中にある強さ。
光を抱き込んで自ら輝き、ゆらめく影をつくる。
そんな正反対の表情を見せてくれる。
それは、人とよく似ている。
透明なガラスはまるで心の中のよう。
人だけでなく植物も動物も、すべての生命の営みに、すべての物事に通じる。
自然のささやかなうつろいに気づいた時、ふと立ち止まり 自分の心のうつろいをそこに映し出す。
いつかの喜びも、悲しみも、あたたかさも、寂しさもー。
生きるものの熱い思いと、はかなさを重ねる。
どんな環境にも対応して、進化していく生命の営み。
何があっても、雪が降り、桜はまた咲く。
夏の虫の音を聞き、落ち葉の匂いを感じる。
そんな移ろいを感じると、 変わる中にも変わらない何かがあると信じることができる気がする。
全てがうつろう中で、永遠につながる一瞬のときは二度と戻らない。
しかし、ガラスは温度と重力によって一瞬一瞬で表情を変えながらも、
その瞬間の表情をとどめることができる。
ガラスは、光を通し、向こう側を映し出す。
それは、現実と非現実の境でもある。
有であり、無でもある。
未来にも過去にも通じる窓。
日々の自然のうつろいを心のうつろいに重ねて、
いつかの記憶と夢をよびおこす。
心のうつろいの一瞬をガラスに刻んで、形ある言葉にしたい。